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【小説】翳の生命

 彼はテレビの音に聞こえを傾けながら、奴の様子を窺っていた。奴はまだ、動くつもりはないらしい。おとなしくしているようである。彼もじっと体勢を整え、ただテレビの放つ光や音を感受していた。
 電灯は点いていない。夜も更けた。テレビの光は、彼の眼を曖昧に刺激する。同時に壁に翳がうまれていた。翳がかたどる模様は、動物の顔のようであり、無機質な機器のようでもある。彼はふいに、棚に飾ってある模型を思い出して身震いした。彼がここに住み始めたときから置いてある、縦長の模型である。なぜ置かれていたのかは未だに謎だ。おそらく以前住んでいたヒトが残していったのだろうが、模型のその不気味な様相を感じるに、暗い翳のような不安しか現れないのだ。それでも除去しないのは、どうしても、曖昧な不安が尾を曳き、捨てる勇気も持てずにいるからだ。
 テレビの電源が切れると、翳が消失した。明暗の差異もなく、部屋は途端に真っ暗な空間となる。――そして奴が、動き出した。
 彼は急いで押入れの中に入って、身を潜めた。押入れは部屋よりも暗く感じる。実際はどちらも暗闇に違いはないだろうに、なにが違うのだろう。彼は疑問を感じない。恐怖に集中し、今夜も息苦しい時間を過ごすのだ。
 押入れの外側で、奴が動いている。なにをしているのか、彼にはまだ分からない。奴もまた、彼がここに住み始めたときから、この家に存在しているらしい。
 静かになる。彼はほっと安心した。危険は過ぎたらしい。
 と、思ったのも束の間。押入れの戸が開いた。戸の向こうに、あの模様が浮かび上がる――そして眼前には、奴が。
 彼は死んだ。フィギュアを家に並べ立てているヒトに。死んだのだ。殺虫剤によって。


‐‐あとがき‐‐
 去年の10月11月くらいに、〈世にも奇妙なショートショートコンテスト〉という企画に参加したんですが、この作品はその没作品です。このとき自分は、「小説媒体でしか表現できないものを書こう」と考えていて、結果うまれたのが「ごくさいしき」だったんですが、その前にいろいろ試してたんですね。「ごくさいしき」の文体を思いつく前には、この作品や「こいのきゅーぴっと」のような、ヒト以外の動物をヒトと思わせるという叙述トリックを考えていました。まあこの作品のとおり、残念なことになったので頓挫したわけですが。

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小伏史央(こぶせふみお)

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