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2017年に観た映画の雑感まとめ

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映画の感想は以下のページに統合しました。
※ネタバレ防止に配慮しておりません。閲覧の際は充分ご注意ください。
http://duca.deci.jp/impressions/movie.html

#読書週間だからRTといいねの数だけ好きな本を紹介しよう(2016.10.28)

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 去年2016年の10月28日から数日間にかけて、Twitterで実施した書籍レビュー企画、「#読書週間だからRTといいねの数だけ好きな本を紹介しよう」。Twitterの海に流しておくままなのももったいないので、このとき投稿したレビューをここに転載します。
 すべて1ツイート(140文字)以内でまとめているので短いです。ネタバレには配慮しているつもり。
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Robin Williams「ノンデザイナーズ・デザインブック」
デザイナーではない人のためのデザイン指南書。つまり素人のための入門書。デザインの4つの基本原則が紹介されている。基本的なことなのに、これを読むまでその基本的な視点を持っていなかった。例も多くてわかりやすい。


橋元淳一郎「0と1から意識は生まれるか――意識・時間・実在をめぐるハッシー式思考実験」(ハヤカワ文庫NF)
宣伝文句に「極上科学漫才」と書かれている通り、面白くわかりやすい。葉緑体人間や人工生命の自己意識、時間と空間の実在についてなどの思考実験。創作的刺激に満ちた一冊。


保坂和志「書きあぐねている人のための小説入門」(中公文庫)
入門といっても、既に何作も創作している人が行き詰まった時に「小説」に立ち返るために読む本かなと思う。読んだときはいろいろと救われた。また読み返すだろうなと思う。


アイザック・アシモフ「生命と非生命のあいだ」(ハヤカワ文庫NF)
アシモフの科学エッセイ。生命と非生命の境界線を論じる話は第一部のみで、天体や未来予想、ひいてはSF論についてなどユーモラスに話を発展させている。すごい内容量で、これ一冊でお腹一杯になること請け合い。

ここからは小説の紹介。
フランク・シェッツィング「深海のYrr」(ハヤカワ文庫NV)
おだやかな前半から、後半へと急加速する怒涛の展開に舌を巻く。海流や生態など背景がとにかく緻密で、作品世界にのめり込まれる。そのぶん科学的蘊蓄が多量に盛り込まれていて、その手の叙述も楽しめる方にとてもおすすめ。


A. ベリャーエフ「ドウエル教授の首」(創元SF文庫)
言わずと知れた名作古典SF。だけどもこれを紹介せずにはいられない。 アクションありロマンスありとエンタメしているソ連SF。なんといっても首だけとなった人間とのやり取りが印象的。初めて読んだときは終わり方に驚いた。


小川一水「老ヴォールの惑星」(ハヤカワ文庫JA)
限られた水と食糧で迷宮に閉じ込められた人々の極限のやり取りを描いた「ギャルナフカの迷宮」、海ばかりの星に取り残された「漂った男」など、良作揃いの短編集。ある木星型惑星に棲む生命体を描いた表題作が、非常に有機的で特に好み。


クリストファー・プリースト「魔法」(ハヤカワ文庫FT)
いつの間にか術中に嵌っている。記憶喪失のグレイが、失った期間のスーザンとのラブロマンスを取り戻していく話……かと思いきや、最後の最後で恐ろしく緻密な構造が明らかになる。この驚きはそう得られるものではない。おすすめ。


六冬和生「みずは無間」(早川書房)
探査機のAIに転写された男の自我が、恋人みずはとの記憶に苛まれながら果てしない宇宙探査を続ける話。探査機が宇宙を放浪するという内容をここまで面白く、そして恐ろしく書けるとは。意欲作。※文庫版も出てます。


円山まどか「自殺者の森」(講談社BOX)
自殺した人間は地獄で木の姿となり植えられる。自殺者の森を管理する少女と、自殺する運命にあるという人々との物語。自殺という題材を扱いながら、恋愛色高めで外に開いた内容になっているのがすごい。文体も好み。


ジェイムズ・バイロン・ハギンズ「凶獣リヴァイアサン」(創元SF文庫)
生物兵器の申し子ミリタリーモンスターパニックSF。とにかく熱い。これでもかというほど熱い。特に斧で対戦する大男トールの場面は白眉。


山本弘「名被害者・一条(仮名)の事件簿」(講談社ノベルス)
ホームズのような名探偵もルパンのような名犯人も巷には溢れている、では名被害者は? という発想の勝利。だけに留まらず、内容もコメディ要素満載。パロディネタが好きな方におすすめ。


伴名練「少女禁区」(角川ホラー文庫)
心温まるホラー。異色な恋愛小説と見たほうが近いかもしれない。併録「Chocolate blood, biscuit hearts.」は自分のリアルタイムの行動をさながら今話題のVRのような形で配信できる世界で、姉弟の悲劇を描いている。


滝川廉治「テルミー」(集英社スーパーダッシュ文庫)
物語が始まったときには既に、高校生26名がバス事故により命を落としている。事故の唯一の生存者、鬼塚輝美は、彼らの魂をその身に背負い一人一人の「やり残したこと」を果たすために動き出した。繊細で綺麗な作品。続き待っています。


かじいたかし「僕の妹は漢字が読める」(HJ文庫)
漢字が廃れたという想定で近未来を描いたSF。読書家な「妹」は漢字を含んだ昔の文学作品を好んで読んでいるが、主人公はそんなものより現代の正統な文学を読めという。その高尚な文体は必見。良く書けたなぁと感服。


エイミー・ベンダー「燃えるスカートの少女」(角川文庫)
喪失感を下敷きにした、突飛なテーマをかき集めた短編集。祖母を母親が産む話、唇だけ失って戦場から帰ってくる夫の話、父親を亡くした日に何人もの男と肉体関係を持つ図書館員の話など。突飛なのになぜかとてもお洒落。訳文が巧い。


三島由紀夫「美しい星」(新潮文庫)
三島由紀夫のSF小説。「円盤」の目撃に捕らわれた一家の話。三島由紀夫といえばその圧倒的な文章力だが、無機質な視点を意識されたのか、他の作品にある至上の美しさは抑えられている印象。そのうえで表されたこの神秘性が好き。


司馬遼太郎「大坂侍」(講談社文庫)
短編集。兄の仇を討つために大坂に来た侍を、仇討ちなんぞ金にならんと言い聞かせ金で解決しようとする「難波村の仇討ち」など。大坂を舞台にしているからこそのユーモア。ときにブラック。


桜庭一樹「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」(角川文庫)
冒頭で結末が明かされる。その結末に向かって進行される本編。結末を既に知らされているからこそ、胸が痛む。読んでいる間何度も1ページ目を読み返し、その都度結末に項垂れる。「おとうさんにしか殴られたことないんだから!」


清水義範「私は作中の人物である」(講談社文庫)
短編集。文才がすごい。柳瀬尚紀訳版「フィネガンズ・ウェイク」のパスティーシュ「船が洲を上へ行く」には特に舌を巻いた。誤字という表現技法。笑えるのでぜひ。


アルフレッド・ベスター「虎よ、虎よ!」(ハヤカワ文庫SF)
自分が読んできた中では、これ以上に“盛り上がる”作品を他に知らない。嵐のように収束される展開は必見。今回ベリャーエフ以外の古典SFは紹介しないつもりだったけど、これを読まないのは、あまりにもったいない。


ダレン・シャン「ダレン・シャン」
吸血鬼になってしまった少年の物語。児童文学とは思えないほど、生と死をシビアに描き切った傑作。登場人物の扱い方、話の畳み方に至るまで、完成度が非常に高い。


北野勇作「かめくん」(河出文庫)
大好きです。


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以上です。

2016年に触れた作品のピックアップ雑感

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 某ふろらぼがよくやってるやつみたいなこと(雑感日誌)やりたいなと思いました。なのでやります。2016年の締めくくりに。
 今年インプットした作品について、いくつかピックアップしようと思います。某某某さんのような熱意ある全感はちょっと難しいので、少しだけ。

■映画
・「シン・ゴジラ」
 3回観ました。すごかったです。炎が街中を這いまわったあのシーンが、BGMも相まって最高でした。
 異様な面白さでした。細部の出来を探すのも楽しかったです。

・「この世界の片隅に」
 描き込みがすごかったですね。ディテールという意味ではシン・ゴジラと似た響き。
 この題材を、まさに「片隅」というスタンスで見せた点が居心地が良かったです。
 人攫いのシーンで、ああマジックリアリズムだマジックリアリズムだと興奮した覚えも。


■小説
・クリストファー・プリースト「魔法」
 これまたすごい作品。
 ひとくくりに言ってしまえば「アレ」(ネタバレ防止)なのですが、明らかに新鮮な「アレ」でありました。
 正直、これを読むまでは「アレ」は80年代で頭打ちになっていると考えていたんですよね。この作品も1984年に出版された作品で、一応その範囲を超えてはいないのですが、今更「アレ」に驚きを感じることがあるとは思ってもみなかった。自分の見識の浅さを省みずに、新しいものに気付かないでいるのではないかと、思い知らされた作品でした。


■漫画
・日高トラ子「たわら猫とまちがい人生」全7巻
 夢半ばネタ大好き。けっこうベタなサクセスストーリーなのですが、話の収束のさせ方と、虚構のバランスが非常に巧いです。
 虚構って結局は虚構なので、あまりに予定調和に過ぎると読者との乖離を起こしてしまうことがあるのですが、この作品には精巧なロボットなど、非常に漫画的なネタが出てくるんですよね。それがむしろ現実感を引き留めているというか、漫画の世界に没入させ、「よくできた話」に違和感を懐かせないような配慮になっていたと思います。

・鈴木健也「寒くなると肩を寄せて」(短編集)
 素晴らしい作品集です。マンガ図書館Zで読めます。


■楽曲
・小南泰葉「嘘憑キズム」(ミニアルバム)
 歌詞カードが見ていて楽しいです。「拘束ロード」好き。

・BUD VIRGIN LOGIC「×旋律-Schlehit Melodie-/断罪のソリテュード」(両A面シングル)
 アニメSHOW BY ROCK!!#挿入歌。どちらもアニメで聴いたときの驚きと、フルで聴いたときの驚きがありました。
「×旋律」は曲調ががらりと変わる部分の連続に、「断罪」は後半のアレと、「ソリテュード」の声の美しさに。
 例えば「ソラウソ」や「Monologue」とかすごくそうなんですが、アイレーン(Vo.)の心情と取れるような危うい詞に、来るものがありますね。先の2曲に見られる“鏡”などのキーワードが、「×旋律」にも表れています(作詞者が異なれど)。
 アニメのほうはちょっとバタバタしていたせいでまだ最終話見れてません。。はやく見たい。


 こんな感じで。来年も良い作品に出会えるといいですね。
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[感想]フィンディル「二人(前展)」(第6回お題執筆会)

※第6回お題執筆会参加作品。2年前に書いた感想です。小説板のデータ破損後、そのまま非公開となっていましたが、良い作品ですので感想を公開します。
※作品は作者様のブログで読むことができます。(こちら
※ネタバレを含みます。
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 新しい。一読して感じたのは、その一言だった。この形式の小説作品は、いままで見たことがなかったのだ。
 たとえば、ミヒャエル・エンデの「はてしない物語」がある。映画「ネバーエンディング・ストーリー」の原作となった小説なので、ご存じの方も多いだろう。この作品は現実世界を舞台にしたパートと、作中の本の中の世界を舞台にしたパートに分けられるが、現実世界の部分の文字をあかね色に、本の世界を緑色にして印刷するという豪華な装丁がなされている。
 「二人(前展)」は、まさにその2色刷りを、“1行ごとに”展開した形式を持っている。そしてそれは1行ごとであると同時に、“同一の行”で展開されているとも言えるのだ。
 「はてしない物語」のような形式の作品は、いくらでもある。交互に物語や視点が入れ替わっていく、という形式の作品はわざわざ例を挙げるまでもないだろう。それらの作品のように、“入れ替え”の仕掛けをもった作品はいくらでもあった。しかし、それら“入れ替え”が、まったく同時に進行していくとしたら、どうだろう。そしてその「同時」とは、決して時系列上の「同時」ではなく、叙述上の、文章そのものとしての「同時」なのだ。
 ウェブ小説が広まったことにより、小説の可能性もまた大いに広がった。小説の本文にリンクを貼ることができるようになり、音楽を流すことができるようになった。Javascriptなどを利用することで一度読んだ部分を、もう一度読み返すと別の内容が浮かび上がるような仕様にすることも可能になった。「紙」という物理的な制約から飛び出た表現の数々は、現在もなお種類を増やしていくばかりだ。
 本作の「新しさ」も、この系譜に属するといえる。“入れ替え”の構成を、紙媒体から脱出し表現した。この発想は、手放しで称賛される他ない素晴らしいものだ。この形式で描くことによって、たとえば男女のユニットがそれぞれ別の歌詞を同時に歌っているような読み合いを提示することができる。二つの物語を、読者に同時に読ませているようなものなのだから、従来の“入れ替え”形式と比べ、より物語同士が密接な関係を結べるようになる。ふたつの物語を“読み比べられる”のではなく、最初からふたつの物語を同時に“読めている”という違いは、小さいようでとても大きい。そうすることによって本作は、二人の登場人物の密接なつながりを、いかんなく発揮することに成功しているのだ。

 魔王討伐の旅に出た男と、その帰りを待つ女のそれぞれのストーリーが進行されていく。二人のいわば「心」とでもいうものが呼応していくのが見どころだ。ある夜流れ星が流れ、双方帰ることができるように願う。そして三日後、最後の戦闘が繰り広げられ、魔王にとどめを刺した瞬間、男は気を失ってしまう。その不安が女を支配し、男の無事を哀願していると、女もふいに気を失ってしまう。そして二人は同時に気を取り戻し、再会を果たす。呼応していた「心」は、ついに隣り合わせになり、そうなるともはや同じ心を有しているかのように叙述が混ざり合っていく。
 実に、この「新しさ」を最大限に活かしたストーリー展開だったと思う。ワンシーンワンシーンの文字数に気を遣わねばならないため、従来の文字数合わせともまた異なる気苦労が必要になったことだろう。意欲作だった。

 ただ、まずこの形式なら改行も自由にできたはずなのに、なぜ改行をしなかったのかということを指摘しておく。「三日後。」「十日後。」のところが特にそうで、どうせ二人のタイミングは合っているのだから、改行をしても問題はなかったはずだ。そのまま押しかけるように叙述が進んでゆくので、時間の流れに違和感が強く残った。この二か所以外にも、気絶していた時間はそんな短いものなのか、だとか、戦闘している時間と花に水をやる時間が同じなのかなど、やはり「時間の流れ」に違和感が残った。

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アンソロジー『おなかがすいて眠れぬ夜に』雑感集(1/3)

[1/3]
[2/3](準備中)
[3/3](準備中)

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 小伏も参加しました飯テロ爆弾アンソロジー、『おなかがすいて眠れぬ夜に』が無事届きました! 1ページに1作品の掌編作品が載ったコンパクトなレイアウトで、読みやすさ満点のアンソロジー! 丸角加工まで施された優れものの爆弾です。
 あまりに素敵な出来、これは感想をしたためねばなりますまい。
 ということで各作品への個人的な雑感集です。
 ネタバレを含むので未読の方はご注意を!

 絶対これ書いてておなかすく。


○氷砂糖さま「焼肉食べ放題、税込一〇八〇円」
 なんだこのタイトルは。おなかがすくではないか!
 そしてそれを優に超えるほど本文が味覚を刺激してきました。焼肉を取り皿に取るところから始まり、熱せられた焼き網に肉が置かれた瞬間。肉を網から取り上げタレにつけた瞬間、白米に載せた瞬間! 手の動きが実にスムーズに描かれていて、これはもうお腹が空くより他ありませんでした。
 とにかくその情景を想起させる擬音表現が素晴らしい。これでもかというほど想像を幇助させます。鬼です。また「肉を取ってタレにワンバウンド、飯にバウンド、あむり。」という一文が特に好きでした。先ほども言ったように箸の流れがスムーズですし、「バウンド」という表現が軽快ですね。
 また、最後まで焼肉を食べる行動を描くことに従事しながら、最後の段落。このタイミングで主人公が焼肉を食べている背景を知り、共感を得るのです。ここまで描かれた焼肉は自分のことでももちろんありえるのだなと。自分も焼肉食べたいなと。
 焼肉という王道の素材も相まって、実にアンソロジーのさきがけを務めるに相応しい作品だったと思います。
 作者コメントに笑ってしまったのはここだけの話。
 ごちそうさまでした!


○西乃まりもさま「プライドオブ関西」
 関西の飯テロ魂。道頓堀のたこ焼き! 「本場の味」を演出するために、つい最近越してきた人の視点で描かれたのは堅実ながら上手いと思いました。前ページの氷砂糖さまの「焼肉食べ放題~」が食べる行為を徹底的に描いているのに対し、こちらは食べたときの人の反応で味を引き出そうとされている。このあたりの差異にそれぞれの書き味が出ているなぁと。
 火傷に注意。
 ごちそうさまでした!


○明巣さま「象徴」
 これ、すごく好きです。構成が上手い。
 一段落目ではフランスパンにトマトを載せたりチーズをかけて焼いたものを食べる描写。この描写自体も素晴らしいのですが、この作品はそれが肝ではないのですね。
 二段落目に入ると「君が作ってくれたものが一番美味しい。」君が作ってくれたバケットのピザトーストを、君と一緒に食べるのが一番好きなのだと主人公は言います。食べ物の描写もさることながら、「君と」いることが主人公の喜びなのであり、そして食べる行為がその象徴となっているのですね。
 食べ物に焦点を定めた一段落目から、主人公「僕」と「君」との愛の物語にフォーカスを変える。たった300文字程度の作品なのにカメラワークが流動的で、綺麗な構成でした。
 また、食べ物の選定もこの作品の上手いところだと思います。描かれているのは基本的にバケットに食材を載せてトーストで焼くだけの、お手軽な料理です。あまり作る人の腕前が影響しない食べ方だと思います。そういう、「君」が格別お料理上手な人だというノイズを持たせないようにすることで、「君」と食べるから美味しいんだ、と言う点を強調した。料理工程がほとんどない食べ物である分、作品の流れにまったく澱ませない。そのうえですごく美味しそう(笑)。とても上手い選出だなぁと。
 素敵な作品でした。ごちそうさまでした!


○綾桜さま「戦いの元はパステルカラー」
 人は争いを繰り返すんだなぁって。
 二行目から四行目にかけてが非常におなかを刺激しました。夏のお供をこうまで美味しそうに描くとは、脱帽です。そして色付きの麺を取ろうとすると起こってしまう戦争。ここまで含めて美味しい風景でした。
 ごちそうさまでした!


○望月あんさま「桃の体温」
 失礼ながら、ここまで来ると筆名を拝見するだけでもお腹が空いてしまうのでした……。こしあん派もつぶあん派も仲良くしよう。
 夏風邪を引いた主人公のために、剥いてもらった白桃。そのわずかなぬるさというのが、この作品の肝ですね。看病してもらう優しさを、「桃の体温」として食していく。面白い視点でした。
 ごちそうさまでした!


○遠藤ヒツジさま「咀嚼された世界」
 素晴らしい文体。特に最初の三行の流麗さには舌を巻きました。これでもかと美味しそうなワードが、読点を挟むことなくどっと流れるように舞い込んでくる。リズムも小刻みで読みやすく、ストレスを感じさせずに、ただただ食欲だけを刺激してくる。文章力の高さが垣間見えます。
 酒の勢いでどうでもいいことをつらつらと考える部分も読んでいて面白いです。混沌とした胃を世界と表現し神の話にまで持っていく。酒の席での哲学は実に笑えますね。
 終始一貫した酒文体。非常に読ませる文体でした。ごちそうさまでした!


○とりのささみさま「クロワッサン」
 失礼ながら、筆名を拝見するだけでもお腹が空いてしまうのでした……(二回目)。
 上手い食べ物は種さえも超える! クロワッサンの描写がもう……お腹が……。「表面の焦げた鎧に隠された小麦の甘味と適度な塩気が私を刺激していく。」という文が特に好きです。これ、実際に食べながらじゃないと書けんでしょ、と思いながら読んでいました。特に「適度な塩気」の部分とかですね。
「何という食い物なのだろうか」というラストから、タイトルを「クロワッサン」とつけるのは流れが綺麗です。
 ごちそうさまでした!


○トオノキョウジさま「春菊天そばと石油」
 一段落目と二段落目の落差が笑えますね。文字通り急に落としてくるので、不意打ちを食らいました。
 最初の春菊天そばのくだりは実に食欲を刺激します。具体的な値段と高田馬場という舞台も相まって、現実味あるどこか懐かしい雰囲気を醸し出していたと思えば、石油王。「とかぬかしやがって返せよ!」の落差ですね。
 ごちそうさまでした!


○堺屋皆人さま「或る貧乏学生の晩餐」
 初っ端からダッシュしていて良いテンションでした。珍しい食べ物を手に入れたときとか、確かにこんな感じかもしれません。
 中間の食べ物の描写パートもハイテンションなまま進行されるので、より一層主人公の興奮が伝わってきておなかがすきました。その描写自体も、香り→見た目→味覚と段階的に書かれていて、ハイテンションでありながらも計算されて書かれているようでした。
 オチも決まってて良い。
 ごちそうさまでした!


○青銭兵六さま「ご飯が炊けたよ」
 一文ごとに改行された文体が、視覚的にも美しさを感じます。特に最後の〈ごちそうさま、否、お終い〉が下揃えになっているので、レイアウトにメリハリがありますよね。レイアウトが素晴らしいこのアンソロジーの中でも、特に綺麗な1ページだと思います。見た目がポエムのようなので、何度も読み返すことに掌編作品の中でも特に秀でてストレスを感じさせません。
 肝腎の内容もまた、素晴らしい! おなかがすく! この作品でひとつめのカテゴリ『たっぷりがっつりたべたいときに』収録作は最後となるのですが、王道の焼肉で始まったカテゴリだけに、ラストも王道! その名も焼きたてご飯! この辺りは作者様というより主催者様の手腕なのでしょうが、素晴らしい構成です。
 ご飯の炊き方にもこだわりが感じられます。なにせ「小さな土鍋」なのですから! 極上のご飯を提供してやろうという作者の意地悪な顔が浮かびます。昨今炊飯器でこと足らせてしまうところを、土鍋! 土鍋ですよ皆さん! 蓋を開けたときの薫りは普通のものではないでしょう。「宝石にも優る」とはまさに言い得た表現です。
「胃袋を締め上げ」る味への期待の中で、「しゃもじを入れ割ると、一層の薫りが鼻腔をつく」。ここも素晴らしい。日常的に嗅いでいるにおいであるだけに、その一層格別なにおいが容易に想像でき、おなかがすくわけです。これには「頬が緩む」より他ありません。
 そして茶碗に盛られた白米は、おかずもなしに口へと運ばれます。簡潔な描写が一層に想像を掻き立てます。そこに加えて漬物と唐辛子味噌。箸の手はとまらず、最後の一文のように、どんどん食材を費やしていくわけです。
 主役は単なるお米だというのに、これほどまでに贅沢な食事もそうそうありません。王道の風格をこれまでもかと注ぎ込んだ、素晴らしい作品でした。
 ごちそうさまでした!


○マンノンさま「謎の料理ブルブル」
 タイトル→「ブルブル?」→「じゃなくてブルグル」の流れが少し好きです。タイトルを「ブルグル」ではなく「ブルブル」にされたあたり、読者の目の動きが把握されているような感覚。
 ブルグルというものを初めて知りましたが、試してみたくなりました。片付けをしつつも、弟の料理に期待しているお姉さんが愛らしいですね。
 ブルグルを画像検索してさらにおなかがすくオプション付き。
 ごちそうさまでした!


○まるた曜子さま「週1の儀式」
 下拵えを読んでいるだけなのに、なんだこの空腹感は……。二段落にわたって繰り広げられた下拵えの下拵えが、最後の段落で一気に味覚をもって迎え撃ってきました。「根菜果菜菜物に少々のお肉。味替え実験調味料」この部分の怒涛さが恐ろしい。
 短いですがこれにて。ごちそうさまでした! いやむしろいただきます!


○柚香さま「太陽のお茶」
 筆名が……(三回目)。
 これまでの作品とは一転、敬体の文章で綴られ、世界観も独特ですね。お茶を差し出すおばあさんはまるで魔女のようです。不思議な世界観のなかで繰り広げられる、「サン・ティー」の作り方。作者コメントによると実際に作れるそうなので、試してみたいです。太陽の味を味わってみたい。
 そしてこの世界観を如実に表しているのが、「6月の子供」。梅雨が明けて太陽が雲から顔を出したような時の流れが、食卓で短い時間で進行されていく世界観。魔法を感じます。
 ごちそうさまでした!


○服部匠さま「カラメル・ノックは誰を呼ぶのか」
 わーいお菓子つくりだ! それもプリンだプリン! と(主に胃が)大はしゃぎになりながら読ませていただきました。本格的な作り方に大興奮です。ぜひ食べてみたいですね。
 そして主人公がプリンを作っている背景には、菓子職人の友人の面影が。料理工程の叙述もさることながら、人物関係のエッセンスが味を引き立てていました。
 ごちそうさまでした!


○せらひかりさま「おやつの時間」
 こんな先生のいる学校に通いたかった……。「頼まれたので」とさらっと軽い動機でクッキーを焼いているのが、印象的でした。日常的にお菓子つくりをしているんだなぁという感じを受けます。
 先ほども申し上げたように、学校という舞台が良いですね。調理室も充実しており生徒たちの喧騒も聞こえ。作者様も仰っているように牧歌的な雰囲気がありました。
 しかもクッキーを焼いている傍では既にケーキが焼き上がりそう。おやつのパンチが激しいです。
 ごちそうさまでした!


○水城翼さま「元気を出してほしいから」
 兄の台詞が好きです。疲れたときは甘いものに限りますよね。琥珀色の紅茶に牛乳が入って不透明になる流れ、良いですね。蜂蜜で甘さを整えたりと、「楽なんだもの」と言っている割には兄のために手間暇かけているなぁと。タイトルの通りですね。兄想いの妹さんです。
「茶葉が容器にぶつかってチリチリと鳴る」という表現がお気に入りです。
 ごちそうさまでした!



2/3に続きます。

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小伏史央(こぶせふみお)

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